無法松の一生と悲劇の桜隊

「無法松の一生」は今や日本映画史に残る伝説的名作だが、戦争中に製作されたため無法松が戦争未亡人に告白するシーンが削除されてしまったことは有名な話である。しかし、そんな不遇な扱いを乗り越えて名作として屹立しているのは、阪妻の名演、伊丹万作の脚本、宮川一夫の撮影、稲垣浩監督の演出と揃った結果だろうが、自分としては別の意味で感慨深い映画である。 この映画では未亡人役の園井恵子が広島の原爆により死亡しているのだが、その息子役の青年期(少年期は長門裕之)を演じているのが川村禾門という俳優。実はこの川村の妻だった森下彰子という女優も園井と一緒に広島で原爆死しているのである。それは桜隊の悲劇として、新藤兼人監督が「さくら隊散る」のタイトルで映画化し、ノンフィクション作家の堀川惠子が「戦禍に生きた演劇人たち 演出家・八田元夫と桜隊の悲劇」を書いている。このノンフィクションの中に、「無法松の一生」の完全復元パフォーマンスの朗読劇の話が出てくるが、出演していた川村禾門が妻だった森下彰子と園井が舞台で共演したこと、そして、戦争が終われば園井と良いお付き合いができるはずだったのに、原爆で一瞬にしてそんな思いが吹き飛んでしまったことを語るシーンがあり、この作品の白眉になっている、こうして記していても泣けるシーンである。 更に言えば、「無法松の一生」を舞台で演じていたのが桜隊のリーダーで、やはり原爆死した名優丸山定夫である。こうした「無法松の一生」を廻る人物たちの因果関係とその悲劇は本当に泣けてくる。