今年のお正月文庫は、この上中下三巻になりそうだ。「英雄の書」の続編らしいが、今のところ、あの書の登場人物どころか、異世界への入り口も現れてはいない。 むしろ、アルバイト仲間の失踪の謎を解き明かそうとする大学一年生の三島孝太郎くんや、お茶筒ビル屋上にあるガーゴイル像が動くという謎を解き明かそうと動き出した元刑事の都築茂典氏の描写を含めて、連続する猟奇事件の怪異といい、極めて「模倣犯」などの現代小説のスタイルを保っている。 しかしながら、起きている出来事は、直ぐにでも異世界に入って行きそうなことばかり。果たしてどう決着つくのか。 子供の貧困、裏サイトでのイジメ、等々、現代社会の闇を背景に映しながら、それとは違う景色が出てくる予感がある。 第一章の山科社長と孝太郎くんとの会話の中に、おそらくこの作品のテーマが隠れている。あのシリーズの続編だとしたならば、だ。 「溜まり、積もった言葉の重みは、いつかその発信者自身を変えてゆく。言葉はそういうものなの。どんな形で発信しようと、本人と切り離すことなんか絶対にできない。本人に影響を与えずにはおかない。どれほどハンドルネームを使い分けようと、巧妙に正体を隠そうと、ほかの誰でもない発信者自身は、それが自分だって知っている。誰も自分自身から逃げることはできないのよ」 うちのおふくろだったら〈やったことは身に返る〉という言い回しをするだろうと、孝太郎はふと思った。(176p) 今年は、ネットで言葉巧みに自殺願望者を誘いこんでいた、連続猟奇殺人鬼も登場した。小説の世界が現実化するスピードが速くなっている。 2017年12月14日読了
「復讐から導き出されるものは絶望だけだ。この二つの精霊(すだま)は一対のものであり、憤怒の子であり、嘆きの親なのだから」 闇のように黒い瞳が孝太郎の瞳を覘き込む。孝太郎がこれまでの人生で見たことのない深淵の闇。光をも包み込む闇。それでいて冷たくはない。恐怖を与えない。 傷ついて泣く子供を抱き、外の世界から隠して慰める闇。 もう一度ガラは問うた。 「それでも、おまえはその女の仇を討ちたいのか」 孝太郎も身を起こし、その場に正座した。 「そうだよ。だって、これはただの復讐じゃない。正義の裁きだ。これ以上犠牲者を出さないように、この領域を守るための正しい行いなんだ」 ガラは孝太郎から目を離さずにかぶりを振る。 「復讐と裁きは違う。似て非なるものだ。人と、人の形に似せて造られたものが異なるように」(185p) ダメだよ、孝太郎。ガラの言う通りだ。復讐と裁きは違う。でも孝太郎は肯んじ得ない。仇討ちに一段落ついても、もう止まらない。孝太郎よ、それが「業」だ。自ら「物語」を作っているのだ、と私は思う。嫌な予感がする。「おまえは後悔する」と何度も何度も予言されている。それが何か。幾つかフラグは立っているが、私にはわからない。下巻を読むのは正月明けになる。 2017年12月26日読了
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悲嘆の門(上)
今年のお正月文庫は、この上中下三巻になりそうだ。「英雄の書」の続編らしいが、今のところ、あの書の登場人物どころか、異世界への入り口も現れてはいない。 むしろ、アルバイト仲間の失踪の謎を解き明かそうとする大学一年生の三島孝太郎くんや、お茶筒ビル屋上にあるガーゴイル像が動くという謎を解き明かそうと動き出した元刑事の都築茂典氏の描写を含めて、連続する猟奇事件の怪異といい、極めて「模倣犯」などの現代小説のスタイルを保っている。 しかしながら、起きている出来事は、直ぐにでも異世界に入って行きそうなことばかり。果たしてどう決着つくのか。 子供の貧困、裏サイトでのイジメ、等々、現代社会の闇を背景に映しながら、それとは違う景色が出てくる予感がある。 第一章の山科社長と孝太郎くんとの会話の中に、おそらくこの作品のテーマが隠れている。あのシリーズの続編だとしたならば、だ。 「溜まり、積もった言葉の重みは、いつかその発信者自身を変えてゆく。言葉はそういうものなの。どんな形で発信しようと、本人と切り離すことなんか絶対にできない。本人に影響を与えずにはおかない。どれほどハンドルネームを使い分けようと、巧妙に正体を隠そうと、ほかの誰でもない発信者自身は、それが自分だって知っている。誰も自分自身から逃げることはできないのよ」 うちのおふくろだったら〈やったことは身に返る〉という言い回しをするだろうと、孝太郎はふと思った。(176p) 今年は、ネットで言葉巧みに自殺願望者を誘いこんでいた、連続猟奇殺人鬼も登場した。小説の世界が現実化するスピードが速くなっている。 2017年12月14日読了
悲嘆の門(中)
「復讐から導き出されるものは絶望だけだ。この二つの精霊(すだま)は一対のものであり、憤怒の子であり、嘆きの親なのだから」 闇のように黒い瞳が孝太郎の瞳を覘き込む。孝太郎がこれまでの人生で見たことのない深淵の闇。光をも包み込む闇。それでいて冷たくはない。恐怖を与えない。 傷ついて泣く子供を抱き、外の世界から隠して慰める闇。 もう一度ガラは問うた。 「それでも、おまえはその女の仇を討ちたいのか」 孝太郎も身を起こし、その場に正座した。 「そうだよ。だって、これはただの復讐じゃない。正義の裁きだ。これ以上犠牲者を出さないように、この領域を守るための正しい行いなんだ」 ガラは孝太郎から目を離さずにかぶりを振る。 「復讐と裁きは違う。似て非なるものだ。人と、人の形に似せて造られたものが異なるように」(185p) ダメだよ、孝太郎。ガラの言う通りだ。復讐と裁きは違う。でも孝太郎は肯んじ得ない。仇討ちに一段落ついても、もう止まらない。孝太郎よ、それが「業」だ。自ら「物語」を作っているのだ、と私は思う。嫌な予感がする。「おまえは後悔する」と何度も何度も予言されている。それが何か。幾つかフラグは立っているが、私にはわからない。下巻を読むのは正月明けになる。 2017年12月26日読了