生物はそれぞれの主とした感覚で捉えた環世界を持っています。人間の場合は視覚ですが、アイシャは目をつぶっても歩けるほど臭覚がするどく、独自の臭覚世界をもっています。 その鋭い臭覚で生き物同士が匂いで、互いにコミュニケーションをとっており影響を及ぼし合っていることに、誰からおそわることなく気がついています。しかし、優れた感覚故に感覚や想いを共有することができず、孤独でもあります。 実在しないオアレ稲やヨマといった虫が登場しますが、その生態は極めて現実世界の生き物に近く膨大な資料をもとにこのファンタジーを構築していることがうかがえます。 虫、鳥、獣、人の栽培する野菜や穀物、そして植物たち。普段は脇役になりがちなものと国のあり方にフォーカスをあてた大傑作です。全てのものは関係性によって成り立っている、と分るでしょう。
仏教的世界観に「縁起」というものがあります。物質も生物もすべてを含めて、網の目のような複数の相互の関係性があることついて表現しているのが「縁」で、複数の相互の関係性より新たに起こる現象を「起」と表現しています。故に雨が降るのも、石が石として存在しているのも、人が生きているのも全て「縁起」と言えます。 縁起を、ベトナムの禅僧「ティク・ナット・ハン」氏が分かりやすく英語に直した言葉としては「インター・ビーング」(相互依存・相互共存)が有名です。 この本の中で、ナーガールジュナ(龍樹)の中論という超古典の話を引っ張り出してきていますが、わかりにくい「空」を語った古典の話をしなくてもよかったのでは? とも思います。 無常も無我も、縁起も空も全て同じことを指しており、同じことの別の側面について語っているに過ぎません。 量子力学は若い頃に勉強したので、大まかなことな知っていました。が、原文ののイタリア語の表現が日本人に合わないのか、あるいは訳がまずいのか、量子力学を知らない人が読んでこれで正確にイメージできるだろうか? という表現が散見されました。 著者の詩的表現やウィットに富んだ(?)と思われるジョークも、私には理解できず、正直余計分かりづらかったです。 簡単な量子力学の解説本と仏教の入門書でも読んで、自分の頭で考えた方がよほどスッキリとわかるのではないでしょうか?
この漫画がすごい! 男漫画第2位に選ばれたそうです。いや、しかしそれも納得の内容。昨今の○○転生みたいな適当なんちゃってファンタジーとは違い、しっかりとした世界観ができあがっています。そして、死別、生物種による時間感覚の違いをメインテーマに据えて、じっくりと物語は進みます。 新たにキャラが登場しつつも、過去を振り返る。思い出の日々を懐かしみながらも、「今」を最も大切にする。その塩梅がとてもいい。 「断頭台のアウラ」編はこの巻で決着。その決着の仕方が素晴らしい。魔族が魔力放出を押さえないことと、まさか一巻2話目での「魔力探知にひっかからない」「それはとても良いことでございますね」というセリフがこんな風に繋がるとは。 抑え目の感情表現に、説明しすぎないセリフ、透明な空気感で描かれる風景、そして時々クスリとさせられるギャク。少し大人向けの漫画ですが、勿論子供にも読んでほしい漫画ですね。
じっくりと絵で見せるお話は2巻でも健在です。2巻になりアイゼンの弟子シュタルクが新たに加わり、掛け合いが更に面白くなりました。何度読んでもクスリと笑いを誘ういい塩梅です。会話も説明しすぎないところがグットですね。 困っている人を魔法で助け報酬を得ながらも、「後にくる皆のためにも」と、さらっと手間をかけるところが素敵。お金がないと生きていけないけども、お金のために生きているわけでもない。いいですね。 死んだ勇者と対話するため魔王城を目指す一行。魔族の残党が生き残っており、これからは苛烈な戦いが始まりそうな予感。 それでも過去に思いを寄せつつ物語はゆっくりと進むのでしょうね。
魔王を倒した後から始まる物語。 通常このようなファンタジーは短編か、ギャグに特化した分野でした。しかし、これは短編でもギャグでもなく、穏やかに続く長編物のようです。 「種族差の寿命による時間感覚の違い」という難しいテーマを見事に描いています。初めの2話で魔王を倒したパーティーの二人が老いで死んでいきます。物悲しく切ないのに、なぜか美しく良かったと思わせるお話となっております。この辺は作者の力量の高さが窺えます。 この2話が話のピークかと思いきや、その後の物語もなかなかの出来栄えです。 しかし、良くこれが、週刊少年漫画に掲載されているなと改めて驚かされます。メジャー誌はエロや暴力描写ばかりでキャラが下品なリアクションしかしない、と思っていましたが、これは別格です。 抑えた表情、静かな物語、美しい風景・・。吹き出しのない小さなコマでさえ、物語が窺える緻密な絵、絵、絵・・・。(個人的にはハイターがフリーレンのスープに嫌いな具(おそらく)を投げ入れているシーンがツボでした) 「魔王を倒した後日譚マンガ」というと際物のように思えますが、むしろ「生」と「死」と「残された者たちの思い」を正面からとらえた、真っ向勝負の漫画です。今、一番のおすすめ。
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香君 上 西から来た少女
生物はそれぞれの主とした感覚で捉えた環世界を持っています。人間の場合は視覚ですが、アイシャは目をつぶっても歩けるほど臭覚がするどく、独自の臭覚世界をもっています。 その鋭い臭覚で生き物同士が匂いで、互いにコミュニケーションをとっており影響を及ぼし合っていることに、誰からおそわることなく気がついています。しかし、優れた感覚故に感覚や想いを共有することができず、孤独でもあります。 実在しないオアレ稲やヨマといった虫が登場しますが、その生態は極めて現実世界の生き物に近く膨大な資料をもとにこのファンタジーを構築していることがうかがえます。 虫、鳥、獣、人の栽培する野菜や穀物、そして植物たち。普段は脇役になりがちなものと国のあり方にフォーカスをあてた大傑作です。全てのものは関係性によって成り立っている、と分るでしょう。
世界は「関係」でできている
仏教的世界観に「縁起」というものがあります。物質も生物もすべてを含めて、網の目のような複数の相互の関係性があることついて表現しているのが「縁」で、複数の相互の関係性より新たに起こる現象を「起」と表現しています。故に雨が降るのも、石が石として存在しているのも、人が生きているのも全て「縁起」と言えます。 縁起を、ベトナムの禅僧「ティク・ナット・ハン」氏が分かりやすく英語に直した言葉としては「インター・ビーング」(相互依存・相互共存)が有名です。 この本の中で、ナーガールジュナ(龍樹)の中論という超古典の話を引っ張り出してきていますが、わかりにくい「空」を語った古典の話をしなくてもよかったのでは? とも思います。 無常も無我も、縁起も空も全て同じことを指しており、同じことの別の側面について語っているに過ぎません。 量子力学は若い頃に勉強したので、大まかなことな知っていました。が、原文ののイタリア語の表現が日本人に合わないのか、あるいは訳がまずいのか、量子力学を知らない人が読んでこれで正確にイメージできるだろうか? という表現が散見されました。 著者の詩的表現やウィットに富んだ(?)と思われるジョークも、私には理解できず、正直余計分かりづらかったです。 簡単な量子力学の解説本と仏教の入門書でも読んで、自分の頭で考えた方がよほどスッキリとわかるのではないでしょうか?
葬送のフリーレン(3)
この漫画がすごい! 男漫画第2位に選ばれたそうです。いや、しかしそれも納得の内容。昨今の○○転生みたいな適当なんちゃってファンタジーとは違い、しっかりとした世界観ができあがっています。そして、死別、生物種による時間感覚の違いをメインテーマに据えて、じっくりと物語は進みます。 新たにキャラが登場しつつも、過去を振り返る。思い出の日々を懐かしみながらも、「今」を最も大切にする。その塩梅がとてもいい。 「断頭台のアウラ」編はこの巻で決着。その決着の仕方が素晴らしい。魔族が魔力放出を押さえないことと、まさか一巻2話目での「魔力探知にひっかからない」「それはとても良いことでございますね」というセリフがこんな風に繋がるとは。 抑え目の感情表現に、説明しすぎないセリフ、透明な空気感で描かれる風景、そして時々クスリとさせられるギャク。少し大人向けの漫画ですが、勿論子供にも読んでほしい漫画ですね。
葬送のフリーレン(2)
じっくりと絵で見せるお話は2巻でも健在です。2巻になりアイゼンの弟子シュタルクが新たに加わり、掛け合いが更に面白くなりました。何度読んでもクスリと笑いを誘ういい塩梅です。会話も説明しすぎないところがグットですね。 困っている人を魔法で助け報酬を得ながらも、「後にくる皆のためにも」と、さらっと手間をかけるところが素敵。お金がないと生きていけないけども、お金のために生きているわけでもない。いいですね。 死んだ勇者と対話するため魔王城を目指す一行。魔族の残党が生き残っており、これからは苛烈な戦いが始まりそうな予感。 それでも過去に思いを寄せつつ物語はゆっくりと進むのでしょうね。
葬送のフリーレン(1)
魔王を倒した後から始まる物語。 通常このようなファンタジーは短編か、ギャグに特化した分野でした。しかし、これは短編でもギャグでもなく、穏やかに続く長編物のようです。 「種族差の寿命による時間感覚の違い」という難しいテーマを見事に描いています。初めの2話で魔王を倒したパーティーの二人が老いで死んでいきます。物悲しく切ないのに、なぜか美しく良かったと思わせるお話となっております。この辺は作者の力量の高さが窺えます。 この2話が話のピークかと思いきや、その後の物語もなかなかの出来栄えです。 しかし、良くこれが、週刊少年漫画に掲載されているなと改めて驚かされます。メジャー誌はエロや暴力描写ばかりでキャラが下品なリアクションしかしない、と思っていましたが、これは別格です。 抑えた表情、静かな物語、美しい風景・・。吹き出しのない小さなコマでさえ、物語が窺える緻密な絵、絵、絵・・・。(個人的にはハイターがフリーレンのスープに嫌いな具(おそらく)を投げ入れているシーンがツボでした) 「魔王を倒した後日譚マンガ」というと際物のように思えますが、むしろ「生」と「死」と「残された者たちの思い」を正面からとらえた、真っ向勝負の漫画です。今、一番のおすすめ。